事例で説明!倍率7.5倍を勝ち抜いた志望理由書指導の実際

授業デザイン

時代の変化とともに、総合型選抜・推薦受験指導も増えてきました。

志望理由書の指導にはなかなか頭を悩ませますよね。

私は総合型選抜の倍率7.5倍を勝ち抜いた指導を経験したことがあります。

そのノウハウを事例とともに紹介します。

この記事は、以下の記事を具体的事例とともに補足したものになります。ぜひ併せてお読みください。

1 とにかく早めにその生徒の適性を見抜く

3年の担任になって、個別面談で志望校を聞き取ります。その時に適性を見抜くことがコツです。

ある男子生徒が●●大学○○学部を志望していることを知りました。

しかし、学力的には厳しい・・・。しかし彼には適性がありました。

以下総合型・推薦に向いているかどうかのチェックリストです。

学校の成績はそこまで悪くない

授業態度も良好

まじめで何事にも前向き

部活動も熱心

性格的にもジェントルマン

忘れ物などもなく、礼儀正しく品行方正。

これは、総合型選抜でチャレンジするしかない!

控え目な性格だから、尻込みするかな、と思っていたら、チャレンジしたい、とのこと。

後で聞くと、彼自身も一般入試では厳しいと思っていたとか。

2 準備期間は対話をメインに

夏休み前まで

推薦入試が駄目だったときの基礎学力の保障のために、しっかり勉強する

志望校の説明会にはこまめに情報をチェックして参加する。

以上のことを年度当初に指導しておきました。そうしたら、とことん、説明会には参加しており、質問までして、夏頃には「また君か。(笑)」と言われるほどになっていました。

その生徒の「過去」のストーリー

なぜその学部学科を受験するに至ったのか、過去のストーリーを深掘りします。

8月の下旬、正式に総合型選抜を受けることが決定してから具体的準備に入りました。

対話しながらその子の過去のストーリーを探ります。そうしたら、やはり出てくるものなのですよね・・・。

小学校の頃、いじめられているクラスメートがいて、その子をかばおうとして、「いじめはいけない」ということをクラスで表明したところ、すごく冷たい目で見られた、しんどい思いをした。

そこで、不条理ないじめに憤りを感じ、差別のない社会にならないか、と人権の問題に興味を持ち、中学校時代はお父さんと法律についてあれこれ話をしたりして社会科に興味を持つようになった。

総合的な探究の時間は、「黒人差別」について研究していました。法文学部志望ですので、ぴったり当てはまります。このネタを使うことになりました。

その生徒の「現在」のストーリー

そして次にその場所、その大学でなければならない理由を探ります。

当然、学部学科調べになると思いますが、それだけでは、複数の大学が候補に挙がります。その大学でなければならない必然性が最も説得力があります。

彼の場合はこうでした。

「小さい頃、祖父母の家で育って自然の中で思い切り遊んで楽しかった。優しい田舎の人々、小さな共同体の中でアットホームに育った。だから田舎が好きだ。その地方にある大学に進学して、そこで貢献できる人材になりたい。」

なるほど、飾り気のない、素朴な、優しく穏やかな彼の言いそうなことです。

でも、失礼な話ですが、なんでそんな田舎に?と思ったわけです。そこで私は根掘り葉掘り聞きました。

「田舎のどういうところが好きなの?人も少ないし、お店も少ないよ?」

そうすると、こういう答えが返ってきました。

「何もないところ。」

と真顔で答える彼。

・・・・・・この時、予想もしないこの答えに、私は胸打たれました。この人は「無条件」にこの田舎が好きなのだ・・・と。

これは本物だと思った私は、自信を持って推薦書を書くことができました。

このように、その大学を受ける必然性を説得力ある形で対話の中から見つけていくのです。

そしてそれは、その子らしいものであること、固有のものであることが望ましいです。

その生徒の「未来」のストーリー

そして、次にその子の過去→現在→未来と大学がとてもかみ合っていることが必要になります。

そのために総合的な探究の時間のテーマと関連付けておく、時には早くからいろいろな体験活動を仕掛けておくことが必要です。

彼の場合、「未来」をどうするかについては、その県の行政の職員になりたいという希望を持っていました。また差別についても勉強したいと思っていました。

大学でその土地の地理や文化・歴史、過疎地域の問題、差別の問題、格差の問題を勉強して、マイノリティーの立場に置かれている人をどうサポートし、地域をよくしていくか、格差問題の解消にどう向かっていくかを学びたい。そしてその土地の良さを生かしながら、地域活性化、地域振興に取り組む人材になりたい。

総合的な探究の時間のテーマは「黒人差別」でした。このように探究のテーマとの摺り合わせも大事です。

3 大学の説明会には必ず参加

大学は生徒対象の説明会を開催することがあります。

それはほぼ生徒の本気度を見るモノです。

彼の志望大学も「総合型選抜受験希望者特別説明会」というものまで開催していました。

一番前に座る。熱心に話を聞いて相づちを打つ。質問をする。

ように、と助言しました。その通りにやったと報告がありました。

4 推薦書を書く

そして担任の大仕事は推薦書を書くことです。

大学側も先生の推薦書を見て、生徒をイメージして面接に臨むという情報を聞いたことがあります。

私は入手できる限りの勤務校の過去の推薦書を全て集めて読みました。

この推薦書は合格、これは駄目、というのを見極め、それよりもよりよいものにしていく気持ちで書けば良いのだ、と判断しました。

好都合なことに、私は推薦書を書くのが大好きだったのです。なんか、物語の登場人物のレポートを書いているようでわくわくするのです。とても楽しい作業でした。

気をつけたのは、初めて読む人でもその生徒の魅力がわかってもらえること、「会ってみたい」と思わせること、かけ離れすぎても肩すかしになってしまうので、盛りすぎず、かといって魅力的な印象を与えるように工夫しました。

先生の推薦書で合否が決まるとは思いませんが、面接で表現できない個人の魅力をアピールしてあげることは大事だと思います。

5 最後の確認

志望理由書は他の先生にも見せてわかりにくいところをチェックしてもらいます。

せいぜい2人ぐらい。たくさん見せるといろんな指摘をされるので本人が混乱してしまいます。少しぐらい独りよがりなところがあっても良いんじゃないかと思います。

雑味を取り除くと平板な面白くない志望理由書になってしまいますしね。

推薦書も本人に見せて間違いが無いか確認しました。面接で聞かれても動揺しないようにしないといけません。

6 最終的には本人の気持ち


面接も最初からうまくなくて、とても大変でした。

でも彼自身のソフトな語り口は直しませんでした。

彼自身もいろんな先生に見てもらって努力していました。

感心したのは、どんなにだめ出しをされても「ありがたい」「勉強になった」と言うところです。彼の姿勢に私も学ばなくては、と思いました。

小論文もずれる(=論点を外す)ことが多かったのですが、最後の最後まで粘ってました。

本番を終えて、感想を聞くと、「できたかどうかわからない」というので、心配しました。

答案再現を見ると、彼の良さが出てました。物事を偏った目で見ない、差別と偏見、マイノリティーの立場を常に考える、彼らしい文章でした。

8 合格発表

倍率は7.5倍。本当に心配しました。でも、合格していたのです!!

合格を告げたときの彼の驚きを一生忘れません。

彼自身は「だめだろう」と浮かない顔をしていましたが、合格者の受験番号を見せると、目を丸くして驚き、足をがくがくさせて、へたりこんでいました。「信じられない!!」と大喜び。

私も幸せな思いになりました。

まとめ

  • その子の適性を見抜く。
  • 現在・過去・未来のストーリーを対話によって紡ぎ出す。
  • その子の個性を活かした推薦書作成

といったことを述べてきました。

最終的には、その子らしさを最大に伸ばすことを心がけ、ともに成長することだったような気がします。

こういう事例、経験談は他の本ではなかなか見当たらないのではないかと思います。参考になれば幸いです。


補足ですが知り合いの大学の先生からのアドバイスも掲載します。許可済みです。

ある意味、志望理由書で差をつけたいなら、目をひくだけのものが必要。

特にまとまったものを書かせるときには、まず受験生がどれだけ論理的に考えることができてるか? 動機と行動のつながりに矛盾はないか?志望する理由を説明するのにどれだけ論理的か?そんなところははずせない。

あと、選ぶ側は沢山の理由書を読むわけだから、読んでる側に「これは面白い」って思わせるもんじゃないとだめ。大学側がどんな人物像を望んでいるかなんて、ある意味みんな狙ってるところだから、そこを書いても仕方がない。 求める人物像を想定しながら、それに適するエピソードなどを織り混ぜて、相手に「この受験生は我々が求める人物だ」と気づかせることが大事。

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