話し方指導というのは難しいですよね。かくいう私も、小学校、中学校、高等学校、大学で本格的に習った覚えがありません。
書き方の指導は、主語・述語の呼応とか、一文を短くとか、文のねじれがないようにとか、いろいろと指導を受けた覚えがあるのに、話し方については指導された記憶がないですね。
しかし、時代の流れとともにプレゼンテーションをする機会が多くなり、また社会でもプレゼンテーション力の高さを求められるようになりました。
授業でも、話す機会を設けることはあっても、つまり、「話す内容を用意する」学習はあっても、話すスキルについての学習があまりなされていないのです。
私は自分なりにあれこれと話し方についての研究を重ね、大村はま先生の著書を読んだり、話し方についての書籍を読んだりして、現場で試行錯誤を繰り返し、ある程度のマニュアルをつくりあげてきました。
今回は私流の簡単な話し方指導の方法(中・高等学校編)を説明したいと思います。
プレゼンテーションの目的
生徒にプレゼンテーションの話し方指導を行うとき、なぜ、話し方が大事なのか、そもそも、プレゼンテーションは何のために行うのか、を押さえておく必要があります。
ポイントは以下の三つに絞りました。
理解してもらう。
納得してもらう。
行動してもらう。
自分の考えを理解してもらい、納得してもらう、そしてできれば「行動」してもらうためにやるのだ、としっかりその重要性や役割を認識してもらいます。
このあたりはいろいろ言い方を変えて書いている本がたくさんありますが、シンプルに整理するとこの3つで良いんじゃないかと思います。
「話す」という行為の特徴~メラビアンの法則~
読んだり、書いたりすることとは違って、「話す」という行為は音声言語なので、実際に文字などになって残りません。
書き言葉とは違う性質・特徴を持っています。
そのため、私たちが心しておかなければならないことがあります。
それはいわゆる「メラビアンの法則」です。
人間が、話し言葉から受け取る情報は、言語情報7%、聴覚情報38%、視覚情報55%であって、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションが9割を占める。
というものです。円グラフでみてみましょう。
話の内容はたったの7%。あとはその人の声のトーン大きさ、速さ、そして見た目、しぐさ、表情などが9割以上を占めているのです。(「メラビアンの法則」については賛否両論の見解があります。あくまでも参考程度に判断してください。)
「話し方」をよりよくしていくことがいかに伝える上で重要かがわかると思います。
しかしながら、日本文化はコミュニケーション上、「受け取り手」側に責任のある文化で、プレゼンやスピーチが理解できないのは「受け取る側」の責任が大きいとされ、長年話す側についての責任が軽視されてきました。
アメリカ文化ではスピーチの上手い下手がその人の評価にもかかわり、ビジネスに大きく左右します。つまり「話し手」側に責任のある文化なのです。
国際化、グローバル化に伴って、しだいに日本でも話し方を鍛えていくことが求められるようになり、学校教育でもその育成に力を入れています。
生徒にも、例を出すなどして、メラビアンの法則はしっかり理解させたいところです。
話し方=声の出し方をどう指導するか
言語情報については、原稿やメモなどを用意して、準備するとします。
いきなり、原稿なしで発表するのはハードルが高いからです。
原稿やメモの準備についてはここでは割愛します。
では、発話、音声についてはどう指導すればいいのでしょうか。
まず安心・安全な場作り
まずは話し方指導の際に必要なのは、教室を安心・安全な場にしておくことです。
4月からの教室作りが必要です。先生と生徒との関わり、生徒同士の関わりを良好にしておくことが求められます。
ここでは詳しく述べると際限がなくなるので、これだけにしておきます。とても大事で、特に様々な課題を抱えている生徒が多い学校では難しい問題ですね。
声の大きさ
声の大きさは重要です。物理的に音が届かないというのは、伝わらないということを意味します。
よく恥ずかしいから大きな声を出せないという生徒もいると思いますが、安心・安全な場で、次第に慣れさせていく必要があります。
放送部のように発声練習をするのもいいと思いますが、手っ取り早いのはマイクを使うことです。否応なく大きな声が場に伝わるので、大きな声で伝えても、みんなが聞いている、安心なんだと思わせることも重要です。
次第に場に合わせた大きさを求めていくと良いでしょう。
教室ならば、後ろの黒板に声が当たって跳ね返るぐらいに・・・と説明しています。
みんながみんなできませんが、練習をさせていくのは大事ですし、場数を踏むとなれていきます。
スピード
仲間内の近い距離で日常会話をしている生徒は、だいたい早口でしゃべっていることが多いので、プレゼンテーションをするときも早口になりやすいです。
体育館などの大きな会場なら3倍遅く、教室なら2倍遅く話してもいい、と言ったりします。
自分の話し言葉を録音させて、速いか、遅いかを自己評価させるといいと思います。この方法は効果的です。
高さ(抑揚)
よく、語尾が上がる生徒がいますよね。「~~~です!」というテンプレートにはめたようなしゃべり方です。逆に平板な読み方の生徒もいます。
どちらも不自然で聞きづらいですよね。
抑揚については実際に実演します。
3年1組の山田太郎です。これから「二酸化炭素は本当に地球温暖化の主な原因なのか」について発表を行います。どうぞよろしくお願いします。
これをまず「こんな読み方する人いるよね?」と言って語尾を上げて読みます。爆笑になります。
次に、抑揚を付けないで読みます。爆笑になります。
そしてNHKのアナウンサーになったつもりで、高いところから読み始め、低いところで終わるようなイントネーションで読んでみます。
生徒は伝わり方が全然違うので納得します。
これをペアワークで読ませ合います。
結構な割合で、語尾を上げて読む生徒がいるので、爆笑になります。
これを日常から何度も意識させることが必要ですね・・・
最も大事なのは、間
そして、最も大事なのは、言葉と言葉、文と文との「間」です。
同じ調子の間を取ると単調になります。
短くしたり、長くしたり、その場に合わせて、その人の呼吸に合わせて取りたい「間」というものが違います。
これも実演をします。
3年1組の山田太郎です。これから「二酸化炭素は本当に地球温暖化の主な原因なのか」について発表を行います。どうぞよろしくお願いします。
私がこのテーマを選んだ理由は今年の猛暑を経験したことがきっかけです。まず私自身、暑さが苦手であること、次にニュースや新聞をにぎわせた「観測史上最高気温」や「ゲリラ豪雨」という言葉を見て、なぜ異常気象が起こっているのだろう、これから地球はどうなるのだろうと 大きな不安を抱いたことが今回のテーマの選択につながりました。みなさんは、二酸化炭素だけが地球温暖化の原因だと思っていませんか?
この原稿にブレス=「✓」などの記号を記入させ、意味のまとまりで切って、間を大・中・小と考えさせて練習させます。
はっきり言って難易度が高いので、最初はブレスだけでいいと思います。
しかし、意味のまとまりで記号を入れるのも、実は国語力が必要なのですが・・・・。
ブレスを入れて、適切な音量で、語尾上げをしないで、早口にならないで読めたら、OKと思ってください。これもペアワークでやるといいと思います。
モデルを見せる・自分の声を録音する
最終的には、練習回数しかありません。繰り返し、自分が本気で作ったプレゼン原稿を何度も練習させることです。
そのときに、話し方の上手い生徒をモデルにして見せると、大変良い刺激になります。
先生をモデルにすると、「先生だから上手いに決まっている」と思い、モチベーションが下がります。
そして、自分の話している声を録音して自分で聞いて自分で修正すると、だんだんうまくなります。
ICT機器がその助けをしてくれるでしょう。
話し方=身振りをどう指導するか
良い姿勢・清潔感
「人は見た目が9割」という本がありました。
やはり聞き手に対して不快な印象を与えないことが大事です。ここは口頭で説明するだけでいいと思います。
明るい表情=口元に笑顔
聞き手に親近感と共感を持ってもらうために、口元に笑顔を浮かべます。
口角を上げるだけでもいいでしょう。
笑顔が苦手な生徒は、目だけでも笑うようにいうと効果的です(笑)
この辺も生徒の個性に合わせて指導ですね。
適度な身振り手振り
やりすぎない程度に身振り手振りは必要です。あまりやったことのない生徒が多いと思います。
出発点としては指揮棒のようなものを持たせて、スクリーンやモニターを指すように指導することからスタートするとやりやすいでしょう。
ここのあたりも慣れしかないので、徐々に自然にできるようになっていくと思います。
アイコンタクト
一人を見る、全体を見る、視線を動かすなど、様々なアイコンタクトで聞き手を引き込んでいくことも必要です。
これも熟練しないとできないので、私は「みなさん」というときには全体を左から右に見るように、というところだけはやってみようと呼びかけています。
でも、モデルの生徒のプレゼンテーションを見ているうちに、だんだんそれを見習っていくように思います。
よいモデルとなる生徒を育てる方が速いかもしれません。
何よりも大事なこと
いろいろと述べてきました。全部いっぺんにやろうとすると、絶対に無理なので、ここは!というところだけ、集中的に取り上げて、あとは徐々に回数をこなす中でできていくかもしれません。
でも、このことだけは外せない、ということがあります。
話している生徒には、
何より伝える気持ちが大切。「わかってほしい」「伝えたい」「聞いてくれてありがとう」の気持ちを心の中に持とう。
聞いている生徒には
聞き手の態度がこの場を決定する。しっかり全身で受け止めよう。同意するときはしっかりうなずこう。
と呼びかけるようにしています。場の空気が全然変わってきます。
おわりに
話し方指導は難しいです。
まず、教える側が教えるに足る「話し方」になっているのか、が問われているからです。
私自身、時々自分の音声や、自分の動画を撮ってチェックしています。
あまり真剣に分析すると疲れるのですが、いい自己点検になっています。
そして時々、NHKのアナウンサーのしゃべりをシャドウイングしています。自分の個性はなくしたくないので、ほどほどに・・・です。
生徒は授業者の話を聞いていますので、やはりいい話し方を生徒の耳に入れたいと思っています。
ともあれ、話し方指導というのは、「話して終わり」になっていて、「磨き合う」指導になるのに時間がかかり、まだまだ現場で行われていないようなので、難しい分野です。
ぜひ実践報告があれば参考にしたいです。