支援を要する生徒への国語科指導方法の模索~ICTを活用して~

授業デザイン

コロナ禍によってICT導入が一気に進みました。

さまざまな試みがされていますが、私自身、一番効果的だったのは、支援が必要な生徒に対してでした。

いろいろな課題を抱え、学ぶことにサポートが必要な生徒に対して、手探りでいろいろなチャレンジをした結果、どのようなICTの活用が効果的だったのかを報告したいと思います。

(1)支援を必要とする生徒の実態

当時の勤務校の生徒実態です。

聞く力が弱い=説明や質問を聞いていない=今なにをすべきか把握できない

黒板が写せない・写すのが遅い 

語彙が少ない 

●漢字は小学校4年生レベル

●定期考査の問題を解くことが苦手=論理的な段階を2,3回重ねることができない

●タスク=作業が多くなる、または同時並行になると処理しきれずフリーズ

●発達障害の生徒がクラスに2~6人程度いる

●生育歴、家庭環境などの問題で、学習習慣が定着していない。

今ではどこの学校でもそういう傾向の生徒はいるのではないでしょうか。

(2)「それ、どこに書くんですか?」黒板を写せない生徒たち

識字障害=ディレクシアの生徒もいまして、黒板に書いても、ノートに写せないのです。

最近は珍しくなくなってきましたね。

こんな風に私なりに工夫しましたが・・・

それ、どこに書くんですか?」の声は止みません・・・。

さらに・・・

こんな風に図式化しても、「それ、どこに書くんですか?」は止まないのです。

 

(3)いろいろ問題点を分析してみた。

●色々工夫してもなんだかツボを外しているような感覚。

●ICTでいろいろアウトプットさせると、目新しいのか、寝る子はいない

●パソコンは面白そうにやっている。「大好き」だという生徒も。

●ただ、インプットの段階にとても困難を感じる。

●そうこうしているうちに、学校生活にも慣れ、授業中の私語や、スマホの操作、さまざまな問題が起きて、ただでさえ、個別指導に忙しくて指導時間を割かれてしまうのに、一斉授業の形をなさなくなっていく・・・。

(4)認知力の低さが問題

そこで出会ったのが、「ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)」という本でした。

児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。

Amazonより

さらに、こちらの記事も参考になりました。

なぜ何もかもうまくいかない? わたしは「境界知能」でした | NHK | WEB特集
【NHK】日本に約1700万人いると考えられながら、これまで気づかれなかった「境界知能」。その生きづらさを当事者が告白しました。

つまり、画像で説明すると、黒板を写せない理由はこうなのです。

左のような立方体を手書きで写そうとしても、右のようにしか書けないのです。物事を認知して、それを再現するという能力が未発達なのですね。

(5)指導方法の見直し

① プリントをユニーバーサルデザインに

●フォントをデジタル教科書体

●(  )よりも□の囲みで空欄補充させる

●書き込み欄にナンバリング

●行間と字間、字のポイントを大きめ

評価欄を設ける

●ある程度書かせるときは罫線を入れる

②一人一台端末+Meet+iPadのGoodNotesで画面共有

これはもうこの図を見てもらえばわかるでしょう。

そうなると、各自の端末はこんな感じになります。

授業者の端末にはこんな書き込みになります。

プリントと同じものがPCの画面に映し出される

認知の負荷が格段に下がる

色もはっきりとわかりやすく、色覚障害の生徒、識字障害の生徒にも好評

「それ、どこに書くんですか?」という声もなし。

写すスピードが速くなった。

おとなしくなった。=落ち着いて授業を受けている

プリント提出の完成度も高くなった。

移動自由。iPadを持って、教室の後ろに回って授業できる。

やりやすいと大好評!

(6)生徒目線で困っていることを考えてみた

①先生の話を聞く・黒板を見る・ノートに書く、といった複数の作業の同時進行が苦手で、書き写すのに時間がかかる。


②前方の黒板と、手元のノートの「視線の往復運動」が苦手で、焦点を合わせているうちにどこを写しとっていたのかわからなくなってしまう。


③教室内の掲示や周りの友だちの動きに興味が向いてしまう。


見たものを覚えておける範囲が少ないので、何度も黒板を見なければならず疲れてしまう。


記憶の保持の時間が短いため、何度も黒板を見なければならず疲れてしまう。


⑥物事を全体的に考えることが苦手で、局所的なところばかりに目が向いてしまう。

(7)反省と課題

①ICTの活用によって、インプット&アウトプットが格段にやりやすくなった。生徒も興味を持ち、意欲を持って取り組んでいる。


良質なインプットをもっと追究していく。今のところ、落ち着いて学習している。ところが、本当に思考しているのか、検証が必要。


③いくらやっても偏差値が上がらない。もう偏差値で測る時代を終わってもらいたい。生徒の認識が変化し、深まったという授業で良いのでは。その方が、生徒自身の後の人生にとっても有益だ。


④様々なことを猛烈な勢いで試してみた。まだまだ試してみる時期。トライアンドエラーの繰り返しで、効果のあった方法をさらに練り上げていきたい。

「読む・聞く・話す・書く」の力がどう伸びたか、が目に見えにくい。今のところ、生徒が興味、関心を持って意欲的に勉強に取り組む、ということで精一杯。


ICT活用スキルは生徒自身、確実に上がったという自覚がある(校内アンケートより)。自信を付けさせてやりたい。


⑦生徒がもっと本気になれる単元の開発が必要。教科書教材にこだわらず、広く単元構想をしていく必要がある。※投げ入れで行った「スマホ脳」のレビューを読んでの感想は、やはり本気になっていた。※サブカルチャーの自主編成教材も熱中していた。

(8)まとめ

ICTは様々な可能性を秘めているツールですね。

本当に学びをユニバーサルに広げ、深めることができました。

今後もしっかり勉強していきたいです。

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