「学習意欲の乏しい生徒になにをやっても生き生きと取り組んでくれない・・・。」「教科書教材なんか、ぜんぜん読もうとしない・・・。」そんな悩みを抱えたことはありませんか?
私はそういう生徒に長年向き合ってきたので、もはや常態化しており、当たり前になってしまっているところがあります。
そのため、つい教科書をすっ飛ばして(笑)、自主教材開発に走ってしまうという暴走傾向があります。
そんな私が、自己肯定感を持ちにくい生徒に対して思い切ってチャレンジし、思いのほか、彼らの自己肯定感を育むことができた取り組みについて紹介します。
学校設定科目での最初の単元として
前勤務校で高校2年生に、学校設定科目「国語研究」というものがありました。
赴任当初、問題集に取り組んで、解き方を教えて、国語力の向上を図っていたようで、シラバスには問題集の名前とページ配分が書かれてありました。
・・・これで生徒がやる気になるのか?と非常に疑問でした。
案の定、その学校設定科目の授業では、生徒はよく授業中、寝ているという話を聞きました。
「進路多様校なのに、生徒実態を考えないで、進学校みたいなことをやって、国語力が上がるわけがないじゃないの。」と、厳しい学校勤務経験の長い私は思っていました。
学習意欲が低めの生徒には、本当に主体的に意欲的に取り組む中で読んだり、聞いたり、話したり、書いたりすることで自然と力が付いてくる・・・というのが私の考え方です。
実態に合っていない既成の問題集を与えるのではなく、生徒が本当にやる気になって取り組む教材を開発することが私たちの仕事なのです。
そこで私はこの学校設定科目の年間の単元計画を0ベースから考え直しました。
その最初の単元は、まず、自分自身を肯定的に見て、そして仲間とともに認め合う関係作りができる単元がいいのではないか、と思っていました。
名前は自分だけの、人と比べることのない、固有のもの
そこで思いついたのが、自分の名前に使われている漢字(ひらがなの場合は関連した言葉)をA4一枚のポスター形式のレポートにすることでした。
- 漢字や言葉を多面的に調べ、深く分析することで、理解が深まり、言葉への興味、関心を持たせることができる。
- 唯一無二の自分の名前の由来や語義を調べることで、命名してくれた人の思いを感じるとともに、自分自身への肯定感を高めることができる。
- A4ポスター形式にすることで、文章化する事への抵抗感を減らすとともに、共有化しやすくなり、自然と他者意識を働かせて成果物に取り組むことができる。
- ICTを活用することにより、デザイン化への負荷を減らすとともに、生徒個人の技量を補ってくれる。
といった利点があると考えました。
これはもうやるしかない・・・と思いました。
単元の流れ
導入でモデルを見せる
まずは生徒に導入として
人は生まれて、名前を付けてもらい 初めてこの世に存在します。 名前を付けることは、人間として存在することであり、それについて知ることは自分自身を理解することでもあります。 自分の名前にどんな意味があるのか、 深く掘り起こし、改めて言葉の持つ深さや広さを認識しましょう。
と呼びかけました。
そして、学習の手引きを配付します。そこには手順が丁寧に書かれてあるのですが、そんなもの、生徒は読みません(笑)
そういう生徒を見越して、モデルを作っておきます。
私自身の名前を調べてモデルを作成しておきました。
モデルを作るのはとても有効です。ただ、コツがあって、ちょっとダサくつくるのがコツです。
「この程度で良いのか」と思わせることです。あまりに素晴らしいものを作ると、ハードルが上がって尻込みをしてしまう生徒もいるからです。
勝手に取り組み始める生徒たち
簡単に手順を説明しておきます。
① 自分の名前についてネットで検索する。 メモを取る。
② レイアウトの下書きをする。
③ Googleスライドで作成する。
④中間発表
⑤ 修正
⑥本発表
⑦ まとめ ・ 振り返り
下書き用紙を用意しましたが、このときの生徒は下書きをしませんでした。もういきなりGoogleスライドで作成していました。
仕上がりが目に見えるし、自分の能力以上にいいものができるので、ものすごく有能感を持って取り組んでいました。これもICTのメリットですね。
モデルと発表会の手順と日時。それさえわかっていたら、 あとは夢中になってやっていました。
ただ、少し早めに中間発表を行った方が良いかもしれません。クラス内の友だちの作品を見て、自分のできがいまいちだと、このままではいけない!とやる気になるからです。こういう他者の作品交流会というのは、刺激し合ってよりよいものを作ろうという気にさせてくれます。
評価の観点
いちおう、評価の観点=ルーブリック評価も示しておきました。
◆評価の観点
□漢字一つ一つの意味の説明が詳しいか。
□漢字の名前でない場合、 その語句の意味を掘り下げたり、漢字に置き直して分析の幅を広げるなど工夫しているか。
ロネットの検索だけでなく漢和辞典、類義語辞典など書籍の情報を入れているか。
□情報収集、分析などを経て、自分自身の考察を深めているか。
□レイアウトに工夫をし、 視覚的に訴えるように工夫しているか。
□提出期限を守り、 真面目に取り組んでいるか。
でも、そんなものを生徒は細かく見ていなかったです。成績を気にしていないので(笑)。
評価は励まし
成績を気にする生徒実態ならば、細かく見て、いろいろと調整したり、工夫したりしたでしょう。
しかし、生徒はクラスのみんなに見てもらいたい、あまり勉強はできないし、良い点数は取れないけど、そんな自分でもこれだけがんばって自分の名前について作品を完成させたんだ!という気持ちは大きかったと思います。
名づけた人の気持ち、ずっとこの名前で生きてきた自分、名前に込められた言葉の意味、その奥深さ、大切さ。それを感じながらの作品作りでした。
そういう生徒の取り組み方を見ていると、ルーブリック評価という言葉はどこかへ吹き飛んでしまい、ただ、「すごいね!」「よくできたね!」「とても工夫しているね!」「伝わってくるね!」という励ましの言葉をかけるだけで十分じゃないでしょうか。
作品を一部紹介します。(許可済みです)
まとめ
取り組み後、成果と課題を以下のようにまとめてみました。
●自分の名前をじっくりと改めて調べて、言葉の持つ深さや広がり、名付けた人の気持ちなど、いろいろなことをくみ取ることができた。
●唯一絶対の自分のものなので、自己肯定感が生まれる。
●優劣の差をあまり感じない。
●ICTの拡張性の高さに助けられ、生徒も予想外のできあがりに満足。素直にできの良い作品を褒め合う。
●職員室前の壁に30枚ほど掲示したら、他学級、他学年の生徒もよく見ていて、「かっこいい」「すごい」「私もやりたい」などの声が聞かれた。
●漢和辞典など、もっと調べる方法を準備しておくべきだった。
一年のスタートとして、自分を認め、仲間を認め合うクラス作りにはなったと思います。
安心して自分の考えを述べたり、成果物を見せ合ったりすることができる土台ができました。
優劣を超えて取り組もうとする生徒の意欲を引き出すこと、そういう単元を仕組むことが大切なのだと思います。