生徒の主体性を引き出す「総合的な探究の時間」のテーマ設定とは?

生徒の主体性を引き出す「総合的な探究の時間」のテーマ設定とは?のアイキャッチ画像 授業デザイン
生徒のイラスト画像

「総合的な探究の時間」が教育現場で実施されるようになり、いろいろな試みがなされ、担当になった先生は試行錯誤をしながら苦労していますよね。

今日はカリマネ担当となって8年間、いろいろな試行錯誤、経験をしてきました。その経験から、生徒が主体的に取り組むようになる「総合的な探究の時間」のテーマ設定の方法、しかも先生の負担をなるべく少なくした持続可能な方法についてお伝えします。

私の8年間のカリマネ歴

女性がPCを使って説明しているイラスト

私は実は新学習指導要領策定以来、8年間、カリマネとともに歩んできました。

2014年 12月 広島県「学びの変革アクションプラン」策定
2015年 4月 課題発見解決学習 カリキュラムマネジメント推進委員(1年目)
2016年 カリキュラムマネジメント推進委員 (2年目)
2017年 カリキュラムマネジメント推進委員(3年目) 2学年主任
2018年 カリキュラムマネジメント推進委員(4年目) 3学年主任
2019年 カリキュラムマネジメント推進委員(5年目) 「産業社会と人間」カリマネ
2020年 総合的な探究の時間 主任
2021年 異動後、総合的な探究の時間のバージョンアップ
2022年 カリキュラムマネジメント推進会議長

県外視察・・・島根 福岡 東京

2020年だけでも50以上の研修会に参加。ここ5年間トータルで100以上の研修会に参加しています。常に新学習指導要領対応の授業について、校内でのカリキュラムマネジメントリーダーとしてがんばってきました。相当な勉強をしたと思います。そこで得られた知識や経験は何物にも代えがたいものでした。

「総合的な探究の時間」に対するバッシング

混乱している女性のイラスト画像

しかしながら、教育現場は先生同士の温度差があります。

特に、総合的な探究の時間の指導案を仲間の先生に提案するとき、固まる空気、重いため息、冷ややかな視線・・・というのを感じます。

「なにやってるのか、さっぱりわからん」「何が狙いなんですか?」という、前世代の化石からの怒りの声

何かをお願いすると舌打ちされる・・・

もう退職まで少しだから、「わしはもうやらん」と公言してはばからない人

何度説明しても、わかってない人、授業直前に聞いてくる人・・・

研修会を開催してもただ座っている人・・・

おそらく、総合的な探究の時間の指導については、先生方の負担感、違和感がとても大きく、担当になった先生方の苦労は大変なのでしょう。私も苦労しました。どうやったら良い方向に行くのでしょうか。

問題点の分析

考えている女性のイラスト

総合的な探究の時間に取り組む上で、あちこちの研修会に参加し、県外視察を行った結果、次のような問題点を整理してみました。

①総合的な探究の時間に対する現場の教員の負担感が大きい。

②研究指定校となって大学側とアカデミックな研究を重ねて高校生離れした研究を発表する学校もあったり、かたやワンパターンのテーマの羅列になったり、現実の生徒の生き生きとした等身大のテーマになっていない。

特に最近ではこのnoteの記事がその辺を巧みに言い当てています。

大人に忖度する探究学習に学びはあるか。|Junya Dohi
今年に入ってから中学や高校の探究学習をお手伝いする機会が増えています。そもそも探究学習というのは、文部科学省が新学習指導要領のなかで示した、社会で求められる力=「生きる力」の育成を目的とした新科目です。 これまで「総合的な学習の時間」とされ...

③素晴らしく熱心でカリスマ性もある先生のリーダーシップでやってきて、先生が異動したとたん、積み上げが瓦解・・・

つまり、持続可能で、なるべく負担の少ない、等身大の高校生が取り組む総合的な探究の時間のあり方になっていないのです。

特に、大がかりな予算、人的配置を行った研究指定校の取り組みは、お金も人もない学校では現実的でなく、参考にならないと思いました。

お金も人も恵まれていない、どこの学校でもそれなりにできる取り組みをやっていかないと、総合的な探究の時間の取り組みは進まないのです。

持続可能な取り組みとは?

話し合う生徒のイラスト画像

では、どうすれば持続可能な取り組みになるのでしょうか。

あちこちの研修会参加、視察を経て、私が考えた、持続可能なミニマムな取り組みとは、「生徒が生き生きと取り組むテーマを設定すること」でした。

生徒が生き生きと取り組めば、先生もその様子を見て、やる気を出しますし、成長を喜びに感じます。また生徒が勝手に取り組み始めるので、先生も無駄な負担を感じずに済みます。

そのためのコツを紹介します。

(1)育成したい生徒像を学校組織できちんと確認し、共有しておく。

育成したい生徒像をストーリーとして、教職員に年度当初に確認しておくことが重要です。

ここは管理職の先生のリーダーシップを期待したいところですね。

年度初めにパワーポイントにして、「こういう生徒を育てるために、こういう取り組みをします、こういう姿で卒業させてきました」という研修会を開催してきました。

教職員集団の目線あわせに必ず必要です。

(2)主体性を喚起するためのテーマ設定を行う。

総合的な探究の時間は高校なら高校の3年間のカリキュラムを考えておかないといけません。今回はとても長くなるので、そこは割愛します。

そこで、最も大事な「テーマ設定」について、私のたどり着いた考えを説明します。

生徒が生き生きと主体的に取り組むためには、その生徒がもっともやる気を出すテーマであるべきです。

主体的に取り組むことができるテーマが設定できれば、半分は成功です。テーマ設定に最も力を入れるべきです。

それには、

①まず、自分の「好き」を掘り起こす。
②「好き」と「社会貢献」とをクロスさせる。
③研究モデルをたくさん見せて多面的に捉える機会を設ける。

というポイントを押さえることです。

そこでまず、「探究ノート」というものを作成させます。

1 ノートを用意する。

2 表紙に「探究ノート」と書き、学年、クラス、名前を記名。

3 自分が興味を持った新聞記事やチラシ、パンフレット、雑誌の切り抜き、ネットの記事など何でも貼って、気づきや感想、自分の分析などを書く。

4 だんだん自分の研究したいテーマが見つかったり、研究の材料になったりする。仲間同士で定期的に閲覧させても良い。

こんなイメージです。

このような内容で日々気づいたことや気になったことを蓄積していく活動を仕組むのです。

(3)「好き」と「社会貢献」とをクロスさせる。

しかし、自分の好きなものだけに取り組むと、単なる趣味紹介となってしまいます。

そこで、「社会貢献」とクロスさせるのです。

たとえば・・・・

「好き」カフェ
   ✕
「社会貢献」地域活性化
   ↓
地元の有機食材を用いたオーガニックカフェ

この社会貢献という視点をクロスさせて、テーマを深めるのが先生の大きな役割になるでしょう。

(4)研究モデルを見せてさらにブラッシュアップ

さらにテーマに磨きをかけるには、いろいろな研究モデルを見せて、テーマのヒントをもらうことです。例えば・・・

  • 大学の卒業論文のテーマ
  • 先輩の研究の引き継ぎ
  • 便利なサイトを活用(下のリンクを参照)
夢ナビ 興味・関心は学問の世界へつながっている
わくわくする学問さがしを始めよう!好きなこと、普段から関心のあることはなに?あなたの関心事には自分でも気づいていない学問への可能性がいっぱい!

この夢ナビサイトはとても便利です。いろいろと検索しているうちに、テーマを深掘りすることができます。

ここまで来ると、生徒から個性的なテーマがでできます。

デトロイト・ビカム・ヒューマンは社会の授業に使えるか。

働き盛りで家事にも忙しい母をどうやって健康的にダイエットさせるか。

アニメ「鬼滅の刃」にはどれぐらい日本の古典作品の影響を受けているか。

その子の個性やこだわりが出たタイトルになっていますよね。こうなると、勝手にどんどん調べたり、アンケートを採り始めたり、外部の関係者に取材しに行ったり・・・ということが始まります。

生徒が勝手に走り始めると、先生方も楽しくなり、次第に負担感を感じなくなるでしょう。むしろ、生徒の取り組みをしっかりサポートしてくれるようになるはずです。

先生方にとっても生徒の成長は喜びなのです。

おわりに

考え合う男女のイラスト

それには、総合的な探究の時間の担当の先生の力量が必要です。

  • 対話による教職員間の関係作り
  • 管理職のバックアップによるリーダーシップ
  • 生徒の成長した姿を見せるカリキュラム編成力
  • 学校外の組織とのつながりを作る力

他にも挙げていけばきりがありません。それぐらい総合的な探究の時間の担当者は大変です。

それなので、欲張らず、もう上記のテーマ設定ができればよし、あとは教職員集団が次第に総合的な探究の時間の指導に慣れて、誰でも指導できるという状態をゆっくり作っていくしかないと思っています。

そうしないと、持続可能な形になりません。無理をすると、持続可能でなくなり、連続性がなくなると、また負担感が増します。

シンプルで誰でも指導でき、生徒も生き生きできる。そういった方法をお伝えしました。何かの参考になれば幸いです。

タイトルとURLをコピーしました