新学習指導要領に頻出する言葉として「主体的で対話的な深い学び」というものがありますよね。
くわしくは
新しい学習指導要領の考え方-中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ
をご覧ください。以下、簡単に引用してみます。
【主体的な学び】学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
【対話的な学び】子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
【深い学び】習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
どうでしょうか?
生徒を主体的に取り組ませるのはある程度イメージできるとしても、「対話的」となると少し難易度が上がってしまいます。
今回は、一般的な一斉授業、発問応答型の授業の場合での、生徒への「対話的」な「問いかけ」のコツについて、お届けします。
授業での対話とは
「対話」という言葉の定義をしておきましょう。辞書的にはこうなります。
対話 向かい合って話すこと。相対して話すこと。二人の人がことばを交わすこと。会話。対談。
広辞苑より
しかし、学習活動ではもっと広い意味で考える必要があります。
「お互いに考えを出し合い、相手の考えを理解しながら、理解を深めること」という意味でしょうか。
そこに国語科であるなら、学習材と生徒との対話、生徒と生徒との対話、先生と生徒との対話、先生と学習材との対話、筆者・作者と生徒との対話・・・といった多様な対話が存在することになります。
このような多様な対話をお互いに行ったり来たりしながら、だんだんと考えが深まっていくのが理想です。
生徒の反応を引き出す対話のコツ その1 教材研究
対話的な授業にするためには、どうしたらいいでしょうか。
それにはまず、教材研究です。
教材をありとあらゆる角度から分析をします。
多面的な切り口で教材を分析する力が必要になります。
ここは本当に何年もかけてじっくり力量を付けたいですね。
当然のことながら、文献を読み、先行研究を調べ、教科内でもいろいろ話し合いをすると良いでしょう。
忙しくて時間がない・・・というのが現場の実態だと思います。
限られた時間ですが、ベストを尽くしましょう。
教材研究をするにも果てしないですから、どこかで見切りを付ける判断も必要です。
生徒の反応を引き出す対話のコツ その2 発問
その次に発問を考えます。
教材研究を深めていくと、自然と発問がたくさんうかんできます。
私の場合、教材研究をしながら板書計画を立てることが多いです。
以下は「曳尾於塗中」(荘子)の板書計画です。
これを見ながら、できるだけ発問を考えてみましょう。
- 登場人物は。
- 誰が誰に何をしたのか。
- 何のために国を強くしたいのか。
- 楚王のこのときの国の状況は。
- 荘子は当時どういう立場の人だったのか。
- 荘子の話の中の亀は何を例えているか。
- 尾を塗中に曳く亀の方が良いのはなぜか。
- なぜ振り返らずに言ったのか。
- 荘子の断り方の工夫は。
- どちらの亀が良いと思うか。
このほかにもいろいろ考えられると思いますが、私は板書計画を見ながら、「ここでこういう発問をして、生徒の答えを生かして、書き入れていこう」と思いつつ、イメージトレーニングをしています。
生徒は狙い通りに答えないときもありますが、その時は補助発問をしながら進行していきますよね。
でも、そうなると、一問一答の単調なやりとりになってしまう・・・という問題が発生します。
しかし、基本的な授業展開スキルとして、こういう一問一答がきちんとできないといけないと思います。
まず、基礎がここですね。まだまだ新規採用の先生はいきなり対話的な授業というのは難しいので、まずは一問一答式に慣れましょう。
もっと技術的に説明すると、こうなります。
①発問する。 ②間を取って全体に考えさせる。 ③指名する。 ④答えを評価する。 ⑤答えを生かして板書する。 ⑥次の展開につなげる。
では、基礎ができたとして、単調にならないように、対話的に深めていくには、どうしたらいいのでしょうか。
生徒の反応を引き出す対話のコツ その3 対話を促すテクニック
安心安全な場を作る
当たり前ですが、教室がちゃんとお互いの意見をきちんと「聞く」、安心して「話す」ことができる場になっていないと成立しません。
厳しい生徒実態のクラスだと、本当に難しいです。
そんなことを気にしなくてもいい生徒実態の先生は、もっと頑張って欲しいですね。
逆に厳しい生徒実態のクラスをお持ちの先生は、とにかく安心、安全な場作りを目指しましょう。それだけでもいいと思うのです。
でも本当に大変な実態があるんですよね・・・(ため息)
授業者が落とし所を持つ
授業をする先生が「今日はこれを生徒に最終的にわかってもらいたい」という「落とし所」を持って授業をする場合と、そういうものを持たないで授業をする場合とでは、生徒の方も授業に対する集中度に差が出てしまいます。
いくら生徒を中心に・・・といっても、授業を形作るのは授業者のファシリテーションによるところがありますので、「落とし所」をしっかり持って臨みましょう。
ファシリテーションのイメージを持つ
対話型の授業を受けてきた先生は「対話型」のイメージを持っておられると思いますが、そういう授業を受けてきた人はまだまだ少数派なのではないでしょうか。
私もメインが講義式でした。
ファシリテーションのイメージを持つことはとても大事です。
予定調和と非難されることはありますが、マイケル・サンデル先生の「白熱教室」を見たことは私にとってはよい効果があったと思います。
そしてやはり対話型の授業を実際に「見る」ことが大事だと思います。
私は日本国語教育学会で小学校の授業を見たとき、とてもよいイメージを数多くインプットできて、対話型の授業を行うためのよいモデルになりました。
今は、生徒に道しるべを投げかけていく・・・というイメージで授業をしています。
マジックフレーズを使う
私がよく愛用しているマジックフレーズがあります。
適当に使っているだけで、結構対話が進むことがあります。
・それはどうして?なぜ?
・なるほど~ 面白いね。
・それだけ? 他には?
・それって言い換えるとどういうことになるかな?
・別の方向から考えてみよう。
・それはユニークな考えだね~ ●●さん、いい切れ味だね~
・あ、今の「かすった」!
何か他にもあるような気もしますが、このマジックフレーズを使うだけでも、かなり対話的になっていきます。
でもこの受け答えの根底には、教材研究があるんですよね。
教材研究を深めていると、生徒がどう答えても、反応できるんです。
生徒を信じる
最終的には、生徒を信じること、これに尽きます。
対話をしていると、なかなか思うように進まなかったり、迷走したり・・・・。
そうなると諦めて、性急にまとめたくなるのですが、生徒を信じて対話していると、深まっていくことがあるのです。
全てにおいてそういうことにはなりませんが、脂汗を流しながら修練していると、トライアンドエラーをしつつ、力量が付いていきます。
そうなるとだんだん生徒を信じて、一緒に考えて、たとえ迷走しても、なんだかいい対話だったな、と思うことが多くなります。
まとめ
対話というのは本当に難しいです。
授業者の熟練度も必要ですし、クラス換えになったら、また一から仕込みをしなくてはなりません。
生徒実態によっては厳しいです。できないこともあるでしょう。そういう場合は一対一でも対話していくと良いと思います。
そして、対話スキルを身につけるには、日々の鍛錬しかありません。
筋トレと同じ。
対話筋トレーニングで対話力を地道に付けていきましょう。
そうすれば、きっと対話筋ムキムキ?になりますよ~